一人の人が死去した場合にその者が有していた金銭や財産は誰に帰属するのか?

  • 一人の人が死去した場合にその者が有していた金銭や財産は誰に帰属するのか?

このような疑問に対するルールを定めるのが相続法です。相続法はその時代の風土や国(法域)の文化によって大きく左右されます。例えば,明治民法下では,家督相続と呼ばれる相続が行われていました。これは,家制度を前提に,家の長(戸主)が死亡した場合には,その者の長男が原則として財産関係を承継する制度です。家制度は,第2次世界大戦後に廃止されました。現在では,遺言がない場合,長男か否かに関わらず,亡くなった者の子供は平等に相続分を有するのが原則となっています。

このような相続法の歴史が教えてくれるのは,全世界,全時代に適合した相続法は存在しないということです。亡くなった者の財産を誰が,どのように引き継ぐべきという疑問に対する回答は,社会が個人や家族をどのように捉えるかによって変わります。現在では当然と思える規定も,30年後には多くの人々の常識的感覚に反するルールとなっている可能性はあるのです。

 

公平な相続制度とは?

下の図をご覧下さい。今回問題となるのはXが亡くなった時の遺産分割です。この事例では,Xの子であるY1及びY2はXが亡くなる前に死去しており,Y1にはZ1とZ2の二人の子,Y2にはZ3の一人の子どもがいました(便宜上,配偶者等の関係は割愛しています)。Xに遺言がない場合,日本の相続法ではどのような結果となるでしょうか。

Y1とY2がともに存命であれば,それぞれ平等に,Y1が2分の1,Y2が2分の1を取得したはずです。しかし,本設例ではY1及びY2はXの死去よりも前に亡くなっています。このような場合,民法第887条2項に規定される代襲相続という制度が適用されます。すなわち,Z1及びZ2はY1を,Z3はY2の代わりにそれぞれ相続するのです。

では,Z1,Z2,Z3のそれぞれの相続分はどうなるのでしょうか。その答えは民法901条に明確に規定されています。民法901条は代襲相続を行う者の相続分は,その直系尊属(この場合Y1,Y2)が受けるべきであったものと同じとし,直系尊属(Y1,Y2)について卑属(子ども)が複数いる場合にはそれぞれ等分するというルールを定めています。

一見,このルールは当然に思えます。Y1とY2が存命であり,Xが亡くなった後に財産がY1とY2にそれぞれ承継され,その後Y1とY2が亡くなった場合と全く同じ結果となるからです。

 

孫という立場は一緒なのでは?

しかし,視点を変えてみると,疑問を挟む余地もあります。なぜならば,今般亡くなったXからすれば,Z1,Z2,及びZ3はそれぞれが大切な孫であることに変わりはないからです。

例えば,あなたが祖父母からお年玉をもらうときに,あなたに兄弟姉妹が一人いることを理由に一人っ子のいとこの2分の1の金額とされたら,不公平と感じられると思います。そうであれば,Z1らそれぞれXの孫で同じなのであるからZ1,Z2及びZ3はそれぞれ3分の1とする考え方も成り立ち得るようにも思います。

アメリカ合衆国では,州ごとに相続法が異なりますが,日本と同じ代襲相続の方式を取っている州は少数派となっています。多数派は,世代が同一であれば,同等と扱う方式を採用しています(生存者のいる世代において,各卑属を平等に扱い,それ以降の世代では代襲方式をとる方法(Per capita with representation),UPC(統一検認法典)にて採用されている被相続人との関係が同等の者は同等と扱う方式(Per capita at each generation )などがあります)。つまり,アメリカの多くの州では,本設例の場合には,Z1,Z2,Z3の相続分はそれぞれ3分の1ずつとなります。

相続法のルールは文化や国によって異なります。あなたはどちらの考え方の方がフェアだと思われますか。

(弁護士 山村真登)

 

 

弁護士・ニューヨーク弁護士 山村真登
2008年The University of Adelaide(オーストラリア連邦) 商学部国際ビジネス科卒業,2012年同志社大学法科大学院修了,2018年New York University School of Law (アメリカ合衆国ニューヨーク州) LL.M 修了,2019年ニューヨーク州弁護士登録。 京都や関西の企業に対し,国際的な取引や活動全般に関してアドバイスを行う他,外国人事件,事業承継や相続等に関する紛争,個人の賠償請求等に関する訴訟等も数多く手掛けている。企業のCSR活動に対するアドバイスの実績もある。